この記事では、ものづくり補助金の申請書類について注意点も含めてわかりやすく整理しています。
【記事概要】
- ものづくり補助金の審査項目
- 審査項目の具体的内容と対応策
- 審査項目を審査員に上手に伝える方法
ものづくり補助金は、採択されることで設備投資やシステム投資を効果的に行うことができ、中小企業によっては有益な補助金制度です。しかし、採択率は必ずしも高いとは言えないため、申請に際しては審査項目をしっかりと理解して適切な計画書を作成する必要があります。
本記事では、ものづくり補助金の審査項目についてポイントを解説し、事業計画書の作成に役立つ内容をご紹介しています。具体的な審査項目とその内容を網羅的に理解することで効果的な申請が可能となりますので、正しく理解して採択可能性を引き上げましょう。
ものづくり補助金の審査項目
ものづくり補助金は中小企業に対して、革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善のための設備投資の費用を補助する制度です。
審査項目は多岐にわたりますが、大きくは以下の4点が主になります。
- 補助対象事業としての適格性
- 技術面
- 事業化面
- 政策面
公募要領では、以下のように記載されています。
(1)補助対象事業としての適格性
「5.補助対象事業の申請要件、申請枠及び補助率等」を満たすか。3~5年計画で「付加価
値額」年率平均3%以上の増加等を達成する取組であるか。なお、「応募者の概要」に記載いた
だいた内容は、審査に考慮されません。
(2)技術面
① 新製品・新サービス(既存技術の転用や隠れた価値の発掘(設計・デザイン、アイデア
の活用等を含む))の革新的な開発となっているか。「中小サービス事業者の生産性向上
のためのガイドライン」又は「中小企業の特定ものづくり基盤技術の高度化に関する指
針」に沿った取組であるか。
② 試作品・サービスモデル等の開発における課題が明確になっているとともに、補助事業
の目標に対する達成度の考え方を明確に設定しているか。
③ 課題の解決方法が明確かつ妥当であり、優位性が見込まれるか。
④ 補助事業実施のための技術的能力が備わっているか。
(3)事業化面
① 補助事業実施のための社内外の体制(人材、事務処理能力、専門的知見等)や最近の財務
状況等から、補助事業を適切に遂行できると期待できるか。金融機関等からの十分な資金の
調達が見込まれるか。
② 事業化に向けて、市場ニーズを考慮するとともに、補助事業の成果の事業化が寄与する
ユーザー、マーケット及び市場規模が明確か。クラウドファンディング等を活用し、市場
ニーズの有無を検証できているか。
③ 補助事業の成果が価格的・性能的に優位性や収益性を有し、かつ、事業化に至るまでの
遂行方法及びスケジュールが妥当か。
④ 補助事業として費用対効果(補助金の投入額に対して想定される売上・収益の規模、そ
の実現性等)が高いか。
(4)政策面
① 地域の特性を活かして高い付加価値を創出し、地域の事業者等や雇用に対する経済的波
及効果を及ぼすことにより地域の経済成長(大規模災害からの復興等を含む)を牽引する
事業となることが期待できるか。
※以下に選定されている企業や承認を受けた計画がある企業は審査で考慮いたします。
○地域未来牽引企業
https://www.meti.go.jp/policy/sme_chiiki/chiiki_kenin_kigyou/index.html
○地域未来投資促進法に基づく地域経済牽引事業計画
https://www.meti.go.jp/policy/sme_chiiki/miraitoushi/jigyou.html
② ニッチ分野において、適切なマーケティング、独自性の高い製品・サービス開発、厳格
な品質管理などにより差別化を行い、グローバル市場でもトップの地位を築く潜在性を有
しているか。
③ 異なるサービスを提供する事業者が共通のプラットフォームを構築してサービスを提供
するような場合など、単独では解決が難しい課題について複数の事業者が連携して取組む
ことにより、高い生産性向上が期待できるか。異なる強みを持つ複数の企業等(大学等を
含む)が共同体を構成して製品開発を行うなど、経済的波及効果が期待できるか。また、
事業承継を契機として新しい取組を行うなど経営資源の有効活用が期待できるか。
※以下のピッチ大会出場者は審査で考慮いたします。
○アトツギ甲子園
④ 先端的なデジタル技術の活用、低炭素技術の活用、環境に配慮した事業の実施、経済社
会にとって特に重要な技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、我が国のイ
ノベーションを牽引し得るか。
⑤ ウィズコロナ・ポストコロナに向けた経済構造の転換、事業環境の変化に対応する投資内容で
あるか。また、成長と分配の好循環を実現させるために、有効な投資内容となっているか。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領 (15次締切分)p33
ここから、それぞれの審査項目について、具体的に解説していきます。
審査項目1:補助対象事業としての適格性
一点目は、補助対象事業としての適格性です。
これは、公募要領で示されている「補助対象事業の申請要件、申請枠及び補助率等」が満たされているかを確認するものであり、いわば前提条件のようなものです。
ものづくり補助金では公募要領で基本となる申請要件や申請枠ごとの申請要件が定められているため、この点を適切に満たしているかを審査するものです。
具体的には、以下のような点が挙げられます。
基本となる申請要件の例
- 公募要領で定められる補助事業実施期間内に発注や納入、支払いなどの全ての手続きが完了するか
- 給与支給総額を年率平均1.5%以上増加させる、3~5年の事業計画を策定しているか
- 事業場内の最低賃金を毎年、地域別最低賃金+30円の水準とする、3~5年の事業計画を策定しているか
- 付加価値額※を年率平均3%以上増加させる、3~5年の事業計画を策定しているか
※付加価値額=「営業利益+人件費+減価償却費」 - 補助事業を行う工場や店舗を有していること
申請枠ごとの要件の例
<通常枠の要件>
項目 | 詳細 |
---|---|
補助金額 | 従業員数 5 人以下 :100万円~750万円 従業員数6人~20人:100万円~1,000万円 従業員数21人以上 :100万円~1,250万円 |
補助率 | 基本は1/2 小規模企業者・小規模事業者、再生事業者は2/3 |
こうした申請要件を満たしていない申請書は前提条件が欠けていると判断されるため、必ず申請要件を満たしているかどうかをチェックするようにしましょう。
審査項目2:技術面
ここから、具体的な申請項目について解説していきます。
まずは、技術面についてです。
技術面とは一言でいうと、「設備投資等を行い、自社の技術的な経営資源を活かしながら新製品や新サービスを開発して、生産プロセスの改善や新規顧客獲得に繋がる補助事業か」というものになります。
それでは、技術面について、より具体的な審査項目について解説していきます。
新製品・新サービスの革新性
補助金を活用して行う事業が、新製品や新サービスの開発となっているか、また、そこに革新性が伴っているかという観点は技術面の審査項目の一つです。
革新性とは、自社が行う新たな取り組みが他社および業界動向を鑑みても優れたものであることです。
つまり、単なる設備入れ替えなどではこの点を満たさず、自社の経営資源や課題を捉えた上で、実施する補助事業が生産プロセスやサービス提供プロセスに付加価値を生みそれが競合他社の動向などを鑑みて相対的にも優れているということを指し示す必要があります。
また、「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」や「中小企業の特定ものづくり基盤技術の高度化に関する指針」に沿った取り組みであるかどうかについてもみられているため、こうしたガイドラインを読み込むことも大切な要素です。
<中小企業の特定ものづくり基盤記述およびサービスの高度化等に関する指針>
課題と目標の明確性
補助事業で実施するサービス開発や新製品開発の課題を明確化できているかどうか、補助事業で実現したい目標に対する達成度も重要な点です。
公的な資金をもとに行われるのが補助金事業であるため、補助事業の課題を事業者側が正しく捉えられていなかったり目標設計が粗いと評価しにくいというのが実情といえます。
課題解決方法の明確性
また、捉えた課題に対する解決策を十分に提示できているかも重要な点です。
例えば、設備導入をして新製品の開発を行う場合、生産プロセス上の課題や開発後の営業面の課題を事業者自らが理解しており、どのようなに対策していけば良いかを設計しておく必要があります。
ものづくり補助金では補助金を活用して事業を行うことで付加価値額の向上や生産性の向上が実現できるということを申請書で伝える必要があるため、課題の把握と対応策の明示が必須になるということですね。
補助事業実施に必要な技術力が備わっているか
補助事業を実施するための経営資源が自社に備わっていることをアピールすることも有効です。
具体例として、新製品開発や生産ラインの改善を目指す場合、最新の技術やノウハウを習得した専門スタッフの在籍や、関連技術のライセンス取得、過去の活用実績などが挙げられます。
審査項目3:事業化面
審査項目の二つ目として、事業化面があります。
簡潔にまとめると、「補助事業を実施する体制が整備されており、市場調査を行った上で補助事業実施のスケジュールや費用対効果を適切に示せているか」という内容になります。
具体的な項目についてそれぞれ解説していきます。
補助事業を遂行できる体制か
人員体制、財務体制の2つの面において、補助事業を実施するためのリソースが備わっているかを示す必要があります。
既存事業に加えて新たな取り組みをすることになりますので、社内リソースが問題ないことを事業計画書で指し示しましょう。また、ものづくり補助金ではつなぎ融資が必要になりますので、金融機関から資金調達が可能であることも盛り込むとよいです。
ターゲットとなる市場が明確か
補助事業を実施するにあたり、マーケティング面の調査を行うことも重要です。
具体的には、市場調査を行って以下の事項を伝えるようにしましょう。
- 市場規模やマーケット状況
- ターゲットとなるユーザー像
- ユーザーが抱える課題と解決策
補助事業が優位性や収益性を生むか
補助事業に革新性があり、価格面や性能面で優位性や収益性が備わっていることをアピールすることも必要です。
市場調査の一環となりますが、競合他社の価格、性能との比較や差別化ポイント、収益化の源泉などを指し示すことで補助事業の革新性が伝わりやすくなります。
事業化までのスケジュールが妥当か
補助事業が事業化に至るまでのスケジュールが妥当であるかを具体的な遂行方法を合わせて指し示しましょう。
事業化までのプロセスが曖昧だと補助事業の評価を適切にジャッジすることができないため、社内で具現化しておくことが重要です。
投資の費用対効果は高いか
事業化面の最後の要素として、「補助事業の費用対効果」があります。
補助事業の費用対効果とは、投資した金額に対して期待できる売上および利益のことを指します。
補助事業では事業成長に向けた設備投資を行うわけなので、ROI(投資対効果)が高いことを数値で示す必要があります。また、その根拠となるエビデンス(販売単価や販売数、固定費等)も明示するようにしましょう。
審査項目4:政策面
政策面では、申請企業が、国や地方公共団体の政策や経済状況に適合しているかが評価されます。
経済政策や産業政策の中で国が掲げる方針が存在し、これらの政策に沿った事業計画は審査上優位になる傾向にあります。
具体的には、地域資源を活かした事業や複数事業者の連携、デジタル技術の活用など、政策目標に沿った事業内容が評価ポイントとなります。
それでは、政策面の具体項目についてみてきましょう。
地域の経済成長に寄与するか
地域の経済成長に寄与する事業は、その地域における雇用の創出や、付加価値の高い製品・サービスの開発・提供によって、地域社会や経済に貢献する可能性があるため、審査において考慮されます。
具体例としては、地元資源の活用や伝統産業の技術革新、地域課題解決を目指す新規事業などが挙げられます。
また、地域未来牽引企業の認定を得ていたり、地域未来投資促進法に基づく地域経済牽引事業計画を策定していると、この点も審査で考慮されます。
ニッチ分野での潜在力があるか
ニッチ市場で独自性のある取り組みを行い強固な差別化が図れる事業も審査においては優遇されます。
ただし、ニッチ市場で事業化することはだれしもが可能なわけではないため、自社の沿革や経営資源を考慮して、妥当性がある場合のみアピールする方が無難です。
他事業者との連携が行われているか
異なる経営資源や強みを持つ企業と連携して事業を行うことで、経済的波及効果が期待できる場合に好印象となります。
中小企業庁は新連携支援という事業者同士の連携による事業活動を積極支援しており、今後も傾向として続くものと想定されます。
取引先や商流上で重要なパートナー企業とのシナジーが見込め事業化の算段が立つ場合には検討すると良いでしょう。
イノベーションを牽引し得るか
デジタル技術や環境に配慮した事業など、国が推進している内容を通じて国のイノベーションを牽引し得る事業の場合、審査において考慮されます。
イノベーションというと大がかりなものに思えますが、各技術の活用を行うこと自体は珍しいケースではありませんので、自社の補助事業で該当項目がないかを洗ってみるとよいでしょう。
事業環境の変化に対応する投資内容か
コロナ禍における事業環境の変化などに対応する投資内容である場合は審査上考慮されます。
外部環境の変化によりバリューチェーンを見直す必要があり補助事業を行う場合は、この点がしっかり伝わるように事業計画書を作成しましょう。
その他の審査項目
ここまで、ものづくり補助金で幹となる審査項目について説明してきました。
ものづくり補助金では申請枠ごとにその他の審査項目が加わります。
具体例として、以下のようなものがあります。
- グリーン枠の場合:炭素生産性向上に向けた課題を明確化しており、温室効果ガス削減への投資対効果が高いか
- グローバル市場枠の場合:国際競争力の高い製品あるいはサービス開発になっているか
各申請枠の目的に応じて審査項目が定められていますので、申請時には目的を果たす補助事業であることを事業計画書に必ず盛り込むようにしましょう。
審査項目を審査員に上手に伝える方法
ここまで、ものづくり補助金の審査項目について解説してきました。
ものづくり補助金で採択されるためには、審査項目を理解した上で事業計画書に適切に盛り込む必要があります。
事業計画書を通じて審査員に対して審査項目を正しく伝える方法としては、以下のような対策が挙げられます。
- 事業計画書のテーマで、補助事業の内容を一言でキャッチーに伝える
- 自社の経営課題、強み、補助事業の内容をストーリーで繋げる
- 図表やグラフ、写真を用いて目で見てわかりやすい事業計画書を作成する
- 売上や利益向上の期待効果を客観的根拠と合わせて数値で示す
- 積算根拠については、販売単価や販売数など粒度を細かくして指し示す
実際に採択されたものづくり補助金の事業計画書の一部が、以下の中小企業庁の補助金支援サイトに掲載されていますので、具体的なイメージの参考にしてください。
参考:中小企業庁 「ミラサポplus」補助金の申請事例・ものづくり補助金①」
まとめ|ものづくり補助金は審査項目の網羅が大切
ものづくり補助金は、審査項目の網羅性とわかりやすい事業計画書の作成が採択に繋がるカギとなります。
事業計画書作成においては具体的な内容や数値、その根拠を示し、革新性や市場価値を明確にアピールすることが重要です。さらに、審査員に対して分かりやすく、説得力のある情報説明が求められます。
これからものづくり補助金への申請を検討されている方は、まず公募要領から審査項目を十分に理解し、網羅的な対応ができるように心がけましょう。
そして、専門家や支援機関に相談しながら、効果的な申請書の作成や補助事業の実施に取り組んでください。
なお、ものづくり補助金の概要については以下のページでご紹介していますので参考にしてください。